【前回のあらすじ】
手術に向けて準備が進んでいたある日、主治医から両親に伝えられた言葉は、思いもよらないものでした。
「この子の手術には、生きた血が必要です」
当時、心臓手術の輸血には冷凍保存された血液を使うのが一般的でした。
でもその先生は、私の小さな体には“その日採られたばかりの新鮮な血”のほうがいいと判断されたのです。
必要だったのは、A型・喫煙なし・前日飲酒なし・徹夜明けでない健康な青年20人分の血液。
父は「そんな条件ぴったりの人、どこにいるんだろうか…」と、手術直前まで頭を抱えていました。
困り果てた父が職場の上司に相談すると、なんと会社のトップがこの話を知ってくださって。
手術当日、社内放送で条件に当てはまる社員を呼びかけ、チャーターされたマイクロバスで病院へ向かってくださったのです。
それでも最後の1人が足りず、沈黙が流れたそのとき──
運転手として同行していた、会社のトップの付き添いの方が、静かに手を挙げたそうです。
健康に気をつけていたその方は、奇跡的にすべての条件を満たしていました。
その瞬間、父は「助かった…!」と胸をなでおろしたと話してくれました。
最終的に集まったのは30人。そのうち、実際に輸血できたのは20人。
父自身もA型だったので、見舞いに来るたびに「また400ml取られた」と笑いながら話していました。
あのとき、名前も知らない人たちの体を流れていた“生きた血”が、
手術台の上の私に、新しい命をめぐらせてくれたこと。
そして今も、その血と一緒に私は生きています。
あの日、駆けつけてくださった30人のみなさん。
お名前もお顔もわかりませんが、心からお礼を伝えたいです。
あなたたちの“生きた血”が、私の命を支えてくれました。
本当に、ありがとうございました。
つづく
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