「この子は、ふつうの子と同じように育てなさい。」
主治医のその言葉が、母の背中を押してくれたのだと思う。
長い手術のあと、私は約1ヶ月の入院生活を送った。
母は病室にサマーベッドを持ち込み、ずっと付き添ってくれていたそうだ。
父や叔父も、よく顔を見せに来てくれて、そのたびに大好物のマグロの寿司やうなぎを持ってきてもらっていたらしい。
決して裕福な家庭ではなかったのに。
「早く元気になってほしい」——
そんな周囲の想いが、あのごちそうには詰まっていたのだと、今ならわかる。
病気をもつ子どもに対しては、親のほうが不安や心配に支配されてしまう。
けれど、それが子どもの心に壁を作ってしまうこともある。
母は、主治医の言葉を胸に、私をできる限り「ふつうの子」として育てようとしてくれた。
「かわいそうな子」ではなく、「なんでもできる子」として。
そのおかげで私は、自分が特別だとは思わず、やりたいことにはどんどん挑戦してきた。
ふつうの子と同じように育ててもらえたこと。
それは、私にとってかけがえのない財産です。
つづく
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