運動は、昔から苦手だった。
足は遅いし、すぐ疲れるし、泳げない。
マラソンや遠泳は病院から止められていたし、音楽でも金管楽器は心臓に負担がかかるからできなかった。
だから、小学校の行事で見学になるのはむしろ「ラッキー」と思っていた。
周りからは「ずるい」なんて言われたけど、本当の事情を全部説明するのもめんどうだった。
そんな私が、小学6年生のとき、マラソン大会に出ることになった。
担任の先生が「少しだけ走ってみない?」と提案してくれて、
母に相談し、短い距離ならOKが出たのだと思う。
私は正直、走りたくなかった。
でも、「やらない」とは言えなかった。
みんなが成長していく中で、
自分だけ止まっているような気がして、
どこかで何かをやらなきゃって思っていた。
当日、私は必死に走った。
歩かずに、最後まで走りきった。
ゴールの瞬間は嬉しかったけど、
心臓が飛び出しそうなくらい、苦しかった。
その日のことを学校の日記に書いたら、
先生が学級通信に載せてくれた。
大きな見出しじゃなかったけれど、
「私はがんばったよ」って、
心の中で小さくガッツポーズをした。
普通の子と同じようにマラソンを走りきった経験は、私にとって小さな自信の芽だった。
その一歩が、少しずつ自分を強くしてくれた気がする。
つづく
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