前回までの学校生活の続きになるけれど、今日は私の高校時代の“ちょっとズレた居場所”の話をしたい。
体育会系の空気に少し息苦しさを感じていた私が、なぜか吸い寄せられるように入ったのが演劇部だった。
……と言っても、キラキラした青春ドラマみたいな話を期待してはいけない。
実は、演劇部は入部してすぐ「面白い!」とは一度も思わなかった。
練習は地味だし、人数が少ないのに主役にはほぼノーチャンス。
そして回ってくる役は、なぜかクセしかない。
『桜の園』では、十五歳の少女をたぶらかす中年男。
別の公演では、中国人の娼婦。
高校生の私に一体何を経験させるつもりだったのか。
今なら確実にコンプライアンス会議が開かれるやつだ。
裏方の音響に回されたときもあったけれど、舞台中央の眩しさとは永久に距離があった。
それでも辞めなかったのは、練習だけは妙に続けられたからだ。
発声。滑舌。暗記。
とにかく地味。
でも、地味なのに、積み重ねるとちゃんと成果が出る。
声はよく通るようになり、教室で自己紹介するときに噛まなくなり、長台詞を一晩で覚えたときは 「え、これ才能?」と一瞬だけ錯覚した。
気づけば私は、“主役どころか脇役でもないけれど、確実に力がついている人”になっていた。
その“地味な力”が、まさかの場所で爆発する。
海外研修の面接は一発合格。
大学受験も面接でスッと通る。
そして、教員採用試験は二度受けて二度とも合格。
舞台上では一度も輝けなかったのに、面接室のイスの上ならなぜか最強。
人生、どこにチートスキルが眠っているかわからない。
華やかさゼロの演劇部だったけれど、そこで積み上げた“地味な力”は、今でも私の背中を押してくれている。


